SBCT関係論文翻訳
1999年10月AUSAの昼食会にて時の米陸軍参謀長エリック=シンセキ大将は演説を行った。陸軍の変革・再編・革新の道程標となる出来事であった。
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山高帽橋の防御
出典 the regimental rouge
URL http://regimentalrogue.tripod.com/bowler/bowler_bridge.htm
原題 THE DEFENCE OF BOWLER BRIDGE A Study in Minor Tactics
筆者 H.E. Graham
日時 1930年刊行
サイト 不明
発行所 London William Clowes and Sons, Ltd. Axtell House, Warwick Street, Regent Street, W.I.

内容


#目次開始


山高帽橋の防御(The Defence of Bowler Bridge)
 序論
全般状況(General Idea)
  特定状況(Special Idea)
第一の夢
  第一段
  第二段
  第三段
  第四段
第二の夢
  第一段
  第二段
  第三段
  第四段
結章

#目次終了



かなり前に筆者は素晴らしい小本或いは冊子を入手した。題名は"Dufferの急流の防御"で"後知恵深慮"という筆名で正体を隠して書かれたものである。今では少将E.D.Swinton卿、K.B.E, CB, D.S.O., M.A.佩用であることが分かっている。

この小作に出会ったことの無い者の便宜のために説明すると、ボーア人(Boers)或いは同様の敵に対して渡河点を保持するにあたっての小戦術の原則を巧妙に描いたものである。

"後知恵深慮"少尉(lieutenant)は一連の夢をみるのだが、その夢で少尉は同一の任務、つまり50名の下士官兵でDufferの渡し(Duffer's Drift)を保持するのを課せられる。最初の5つの夢では少尉は戦術的誤謬を犯し、毎回失敗する結果となる。しかし、それぞれの夢のあとで少尉は確実に内省し失敗の原因、そしてそれに含まれる戦術原則を突き止める。少尉は二度と同じ誤りを犯さない。最初の5つの夢ではありとあらゆる誤謬を犯すが、6番目の夢では問題の適切な解決策を見出す。

時代は流れ、戦争を遂行する術も変わった。おそらく最も大きな変化は装甲戦闘車両の登場であろう。偶然にも"Dufferの渡し"の著者はその初期からの信奉者であった。

戦争の原則は変わってはいない、が、その適用は変わった。小数の砲を伴う乗馬小銃兵(mounted riflemen)からなる敵に対して成功した方法は装甲車(armoured car)および戦車(tank)の敵に対しては必ずしも有効ではない。

今日(およびさほど遠くない将来の)若年将校(junior officer)が実戦において装甲戦闘車両を相手に孤立した渡河点を保持するのを求められることはありえる。若年将校の多くが平時の訓練においてそう求められることはかなり確かであろう。

筆者が試みたのは、"後知恵深慮"が用いたのと同様の方法により、いかに渡河点(river crossing)を保持し道路阻塞(road block)を構築し防御すべきかについての見解を伝えんとすることであった。

ここで示される方法が最良で無いということは大いにありえる。合理的で健全であると主張するのみである。

敵の戦力をみるに、Smithと彼の小隊は不可能事を成し遂げたという向きもあろう。これは正当かつ根拠ある批判である。しかし、楽観は兵にとって望ましい資質であり、夢の中ほど楽観的となれるときはあろうか?

さらに、物語が伝えるのは普遍的にあてはまる重要な事実である。つまり、装甲戦闘車両のみで構成される部隊は実際には非常にはっきりした限界を抱えていること、また決意に満ち適切な装備を持つ敵が保持する物理障害に対したとき、極めて困難な問題に直面するということである。

この物語が掲載されたのは、続き物という形で"The Army, Navy and Air Force Gazette"であった。筆者は編集者に多くを負うものである、彼は再掲を許してくれたのみならず、出版に当たって親身に援助して頂いた。



山高帽橋の防御(THE DEFENCE OF BOWLER BRIDGE)

序論(PROLOGUE)

全般状況(GENERAL IDEA)

ルリタニア(Ruritania)、大戦(#第一次世界大戦)後成立した多数の新国家の一つは強盛なる隣国インダストリア(Industria)から攻撃を受けている。大英帝国(Great Britain)は盟約を果たすべく、ルリタニア救援に遠征軍を派遣した。インダストリアは戦車および装甲車を保有することが知られている。

特定状況(SPECIAL IDEA)

ウエセックス連隊第1大隊(the 1st Battalion Wessex Regiment)は英国援護軍(British Covering Force)の一員としてある師団を編成して装甲車とともに1930年8月1日ロブスターブルグ(Lobsterburg)にて陸揚げ(disembark)した。


第一の夢(FIRST DREAM)

第一段(PHASE I)

ウエセックス連隊第1大隊第4小隊を率いるAugustus Sydney Smith少尉(lieutenant)は疲れ果て空腹だった。傭船Prince Rufus号はロブスターブルグに早い時間に着き、下船やその他三級海港での陸揚げに付き物の様々な任務が舞い込み、大隊が夕方遅く宿舎に落ち着くまで休みはほとんど取れずほとんど食べることも出来なかった。

部下たちが安楽に寝床についたのを見てから、スミスや他の少尉たちは隣の食堂へとくり込み、街の名物であるロブスターマヨネーズを沢山と白ワインで精気を養った。

午後10時にスミス少尉は宿舎に戻り、ほどなくして深いが些か悶々とした眠りに入った。

ドアを鋭く叩く音がして少尉は眼が覚め、申し分ない従卒であるPinchin一等兵が入室してきた。"副官がただちにとの仰せです、上官殿"

スミス少尉はなんとか眼を覚まして何と言われたかを理解すると、急いで衣服を纏い大隊事務室(the battalion orderly room)として使われている食料雑貨倉庫へ向かった。大隊長(the C.O.)と副官(the Adjutant)、そして少佐(the Major)に同じ中隊の少尉二人がいた。

大佐(the Colonel)はそれぞれに地図を与え単刀直入に切り出した。

sketch1.gif


"知ってのとおり、ルリタニア軍主力とインダストリア軍はここから北の国境(Frontier)沿いで交戦している。英国遠征軍本隊の到着は明後日からだ。師団長(the Divisional Commander)はルリタニア軍参謀からインダストリア軍機甲部隊がロブスターブルクを西か北西から突き、英国遠征軍(B.E.F.)の陸揚げを妨げるべく大きく旋回運動中と聞いた"

"地図を見ればわかるように、当地から西におよそ20マイルをthe Raspberry Riverが流れている。同川のケルン(Koln)より下流の渡河点は三箇所のみ。山高帽(Bowler)、中折れ帽(Homburg)、シルクハット(Topper)である。ケルンはルリタニアの部隊が保持している(第一図参照せよ)"

"司令官(G.O.C. general officer commanding)は旅団1個を出して敵を河川線で遅滞(delay)し、可能ならば渡河を阻止(prevent)することを決意した"

"本官は山高帽、中折れ帽、シルクハットそれぞれにバスで1個小隊を送り敵の装甲車を阻み、橋を確保し敵の渡河を防ぐことを命じた。いかなる場合も橋梁は破壊してはならない、総司令官(C.-in-C.)が後日必要とすることがありえる"

"ルリタニア陸軍のため機械力による輸送はほとんど使い尽くされているが、ロブスターブルグ市長が1時間のうちにバスを6台用意する手配をしている。また市長は信頼できる道案内を見つけてくれる。旅団は行軍せざるを得ぬから、少なくとも24時間は到着しない。各小隊には対戦車砲(anti-tank gun)1門をつける。糧食は二日間分を携行し直ちに出発準備に入れ"

"スミス少尉は山高帽へ、ロバーツ(Robertts)少尉とゴードン(Gordon)少尉はそれぞれ中折れ帽とシルクハットへ向かえ"

"需品の蓄えから糧食、装備、土嚢その他を受領せよ。道の向かいの倉庫に入っている"

"旅団長(the Brigadier)は本官にバイク伝令(motor-cyclist despatch rider)3名を与えてくれた。各員に一人づつ付ける。民間電話を諸君らが使う手筈は整えたので、本官に情報を送るように"

"さて何か質問はあるかね。無いか。よろしい。幸運を祈る。一刻も早く橋に到着せよ。ただいま2時である。3時には出発し、明朝曙光には到着するように"

少尉三名が部屋をでようとするとき、副官が呼び止めた。

"言っておく。兵卒を電話口に付けて我々がいつでも貴官らを呼び出せるようにしておけ"

続く1時間は騒然としたが3時には我らが友は小隊をバス二台に乗せ必要な装備、土嚢、弾薬、糧食を積み終えていた。また対戦車砲も用意した。これは小型の全装軌車両に砲が載せられているものであった。こぢんまりとした小さな車両である。搭載の砲(#原文 the ?8 gun)は車載のままでも、卸して据えつけても撃つことができる。

車両は小さく乗員5名に砲弾50発を積んでいるため、さほどの装甲はなく、エンジン重要部が防護されているのと正面の小火器射撃から乗員をいくばくか防護できるだけの小さな防盾が付いているのみである。

道案内役は快活な人物でルリタニア正規陸軍で勤務して今は郷土予備役の者であった。同男性はロブスターブルグにて英国貿易会社に数年勤めているため英語をかなり話せたのも長所であった。彼は山高帽の生まれである。

スミス少尉は最善案は自分が先頭のバスに道案内役を脇にして座ることだと考えた。かくて彼は出発し、続くは対戦車砲、そして小隊軍曹が担任する二両目のバスである。

少尉のバスが50ヤードもすすまぬうちに大声で叫ぶのが聞こえた。バスに止まるよう命じて少尉が飛び降りると中隊長が走って追ってくるのが見えた。

"おーい、頓馬野郎、一体(伏字)何をしているか分かってるのか? 最初に出くわした装甲車に撃ち竦められたいのか?"

スミス少尉は些か当惑した。"ですが、上官殿。嫌らしい奴(the beastly things)がこちらを撃つのを止めることはできません"

"できないだと、脳なしめ! 対戦車砲を先に立てれば、装甲車を撃ち竦めることができるだろう。お願いだからしゃきっとしてくれ。戦争だということを分かってくれ。ちょっとピクニック(blinking picnic)にいくんじゃないんだ"

がくっと意気消沈して、スミス少尉は"すみませんでした、上官殿。対戦車砲を先頭に置くことを思いつくべきでした"と呟くようにいうのが精一杯だった。弱々しい答えに怒りもそがれてしまった。

"よろしい。丸ぽちゃ君(Chubby)。常識を働かせたまえ"

対戦車砲担当の伍長から砲を対戦車車両の上で扱うには二名で十分だと聞きだして、スミス少尉は乗員のうち2名を先頭のバスへ移し、自身と道案内役が代わりに乗った。

明るくなるころ、少尉たちは何事も無く目的地に着いた。


第二段(PHASE II)

sketch2.gif



山高帽は小さくてありきたりの村である。唯一重要なのはロブスターブルグからの本道が木苺川(the Raspberry River)と鋼製の桁橋で交差していることである。

木苺川は幅およそ40フィートの緩やかな流れの川である。東岸に山高帽村があり、高地で地面はしっかりとしている。西岸は低くて湿地となっており、この湿地は川から大体300ヤードのところまで広がっており、フィドルトン(Fiddleton)へはこの湿地の間を土手道として抜ける。

ケルン(Koln)および中折れ帽(Homburg)までは木苺川左岸を良好な道路が走っており、距離はケルンまで10マイル、中折れ帽まで8マイルである。

山高帽村の店は全てロブスターブルグからの道沿いにある。住家は川に面して立っており、道からは間をおいて並んでいる。各家には前庭があり、低いおよそ3フィートの煉瓦壁に囲まれており、飾り鉄柵が塀の上に巡らされている。

スミス少尉は到着するなり、作戦会議(council of war)を開き小隊軍曹、対戦車砲付き伍長を招いた。道案内役も協力者として加わった。

小隊軍曹のバス(Bass)は誇り高きD.C.M.にM.M.の佩用者であり、大きな布袋腹の主である。前二者は大戦での勇敢により授けられたもので、後者は軍曹食堂(the Sergeants' Mess)の酒場への絶えずの精勤により授けられたものである。彼は1918年に軍曹で、1930年になっても軍曹のままであった。あるときBass軍曹は勇気を掻き集めて指揮官(C.O.)になぜ常に昇進では先を越されるのか聞き、大戦での赫奕たる戦功に触れてみた。"あぁ、装だな"と指揮官は返答した。"我々は皆、君が大戦で何をしたかを知っているとも。しかし、君は大戦以来何をしたかね? 私に言えるのは君は軍曹食堂の酒場を支援する以外は何もしていない"

しかしながら、上級将校(the senior officer)の覚えは悪いが、二つの栄えある大戦徽章を佩用していることから若輩の兵にはある種の魅力が映り、スミス少尉もバス軍曹を平時には些か頼りないが、戦時には巨人であったし、またそうなるであろうとみていた。

ワッズ伍長(corporal Wads)は若手で経験を欠いている。彼はビールを飲まず紅茶、レモネード、巻きパンに給料を使う世代である。

スミス少尉自身も在役2年のみで、その大半を小さな守備隊町で過ごした。平均的な能力の若者であり、思い出せる限り"おんぶだっこ"で育てられてきており、独力でやるのはこれが初めてだった。

これがまさに山高帽橋の防御を決せんとする御前会議(the Aulic council)の顔ぶれであった。

バス軍曹は戦歴と年齢に照らして、最初に意見を求められた。

"言わば朝飯前ですな! ここには橋は一本だけです。この野郎が言うに近くには渡し場は無いし、こことケルンや中折れ帽までにも橋は無い。上官殿、橋に砲を据えたら我々の残りは朝食を少々とって休むとしましょう"

ワッズ伍長はこの意見について何も言わなかった。伍長は橋に何らかの障害を設けるべきと言い、そうすると伍長が説明するには、敵車両を停止させてやすやすと撃てる可能性が出てくるとのことだった。

道案内役は付近には渡渉点は無いと確認し、付け加えることは無かった。

スミス少尉は問題に思いを巡らせ、これらの策で良いし十分に思えた。

そこで少尉は対戦車砲を車両に載せたままで橋の手前岸まで進むよう命じた。小銃班2個が荷車(cart)、農具(farm implements)その他を集めに回った。橋の対岸にきちんとした路上阻塞を作るためである。

郵便局(the Post Office)もロブスターブルグ道に面していることが分かり、その隣はかなりまともな宿屋で大きな中庭ときちんとした離れ(outbuilding)が付いていた。

一名が郵便局に詰めるため派出され、小隊の残りは宿屋の中庭に集合し、朝食の準備が始まった。

午前6時30分、スミス少尉は小隊軍曹とともに検閲巡回に出た。2個小銃班は路上阻塞を作り終えていた。田舎の荷車二台が道に引き出され何本かの鋤が荷車の間を埋めるように投げ出されていた。

対戦車砲を載せた車両は橋の上に居り、荷車二台の間から路上を瞰制して射撃できる位置であった。

小銃班2個は宿屋に朝食のため戻るように命じられた。バス軍曹に対戦車砲の乗員のもとへ朝食が届けられるようにせよと指示したあとで、スミス少尉は宿屋に検閲に非常に満足して戻り、どんな装甲車が現れようと"首根っこを捕まえ"られるとの自信を抱いた。

宿屋に着くと、忠実で思慮深いピンチン(Pinchin)従卒がロールパンにバターとオムレツ、美味い珈琲は好きなだけ注げる素晴らしい食事を持ってきてくれた。

つまるところ、戦争もそんなに悪くないな、それに独力であることには良い点もある。古き良き木苺川は良い奴だ。敵の野郎は橋梁で渡るほか無く、渡ったら驚くことだろう。少尉は敵が渡ってくることを本気で願った、山高帽橋の守護者とはなるほど功名なことだろう。そうとも! 彼は確かに敵が来ることを願っていた。

そして、彼らは来た!

最後の珈琲を飲み干し、煙草に火をつけたとき、まがうことなき機銃音が橋の方角から聞こえた。スミス少尉は対戦車砲の発砲音はと耳を澄ましたが空しかった。通りに急いで出ると、あやうくバス軍曹にぶつかりかけた。軍曹も多々欠点はあろうが、個人として勇気に欠けるところは無かった。砲声のするところへ向かえという格言が彼には徹頭徹尾染み渡っていたのである。二人で橋へと駆けると、角を曲がるか曲がらぬかのところで装甲車が曲がってくるのが見えた。自己保存の本能から両名は開いていた戸口へと飛び込み、装甲車の機銃の連射からからくも逃れた。装甲車は通りを走って行き、すぐにもう一度連射が聞こえた。正面の部屋の窓から眺めて、彼の小隊の多数の兵らが宿屋から飛び出て装甲車からの銃撃に捕えられたのをみてスミス少尉は慄いた。彼は戸口へ急いだ。が、がっしりした軍曹が止めた。"今出て行っても無意味です、上官殿。何も出来ませんし殺されるのは確実です"

"そうできたらいいのに"と哀れなスミス少尉は答えた。"このひどいざまは私がやったんだ。ここに留まって部下が撃たれるのを見ていられない"

幸いなことに、敵車はその日の仕事に満足したのか、道の行く手に急な用事があるようだった。スミス少尉は宿屋へ駆け戻り、軍曹が続いた。二名が戦死し、四名が負傷していた。死傷者は宿屋に運び込まれ、中庭への門を閉ざし、スミス少尉は宿屋と離れを守るべく小隊を配置につけた。ここでバス軍曹が役に立つ助言を多くできることがわかった。軍曹にとってお手の物の事柄だったのである。

準備が完成する間もなく、二台目の敵が来た。ルイス機銃(Lewis gun)の連射と小銃の射撃の歓迎を受けると、気に入らなかったのか、忽ち後進して通りから出て、角を回って来た道へ戻ってしまった。

スミス少尉はやっと考える時間を得られた。気は重かった。彼が失敗したのは確かであるが、どうやって敵装甲車が橋を渡ったのか分からなかった。彼はバス軍曹に聞いてみた。"ワッズ伍長と大した対戦車砲に何が起きたんだろう?全く撃ってないように思える。この畜生な装甲車が走り回っていてはあそこまで行って突き止めることもできない。伍長が無事だと良いが"

"そうは思えません、上官殿"と軍曹は返答した。"しかし、それにしても私はああいったレモネードと紅茶を飲む青二才の手合いは大して高く買っておりませんでした"

結末がどうなるか、スミス少尉には見当も付かなかった。どうにか切り抜けることができればだが、それも疑わしいが、司令(C.O.)が彼やはたまた副官や中隊長のピンクジン(Pink Gin)になんというだろうかと思った。少尉は自身を哀れむばかりでなくが彼らの期待を裏切ったのは確かでありすまなく感じた。

突如として、東からさらに機銃音が聞こえた。最初にみた装甲車が後ろへ向かって撃ちながらすごい早さで戻ってくるのが見えた。宿屋を過ぎるところで、この装甲車は守備していた兵からしこたま射撃を受けた。前を通り過ぎるかというところで、突然大きな音が二回して装甲車は舗装路上で揺らいだかと思うと家の壁に突っ込んだ。この装甲車に続いて見誤りではなく、英国の装甲車が二両追って来た。そして、僅かな間をおいて、さらに二両来た。

敵車が完全にやれらたのをみて、先頭の英国車二両は交差点へとまっすぐ進んだ。後ろの二両は宿屋の外で止まり、バス軍曹は二、三名とともに他の者に先んじて敵車の者を捕虜を取った。調べた結果、敵車はルイス機銃と小銃射撃のためタイヤが二本パンクしたことが判明した。

少尉は中隊長が装甲車から下りてくるのを見て喜ぶべきかどうか分からなかった。

すぐに喜ばないことに決めた。

古強者のピンクジンは開口一番、"さて、何をしていたのかね?"である。"一体どうやって敵の装甲車はここに来れたんだ?"

"橋を越えてきました"、少尉はそう言うのがやっとであった。

"しかし、君は彼らが橋を渡るのを阻止するため遣われたと思っていたが。対戦車砲はどこかね?"

"分かりません、上官殿"とスミス少尉は答え、そして知る限りを話した。

話を聞いて、少佐(the Major)は装甲車の車長と談じた。車長は村から敵は追い払われたようだと告げた。

少佐は次いでスミス少尉を連れて橋で何が起きたのか見に向かった。

二人は砲も対戦車車両も完全で無傷なようであるのを見つけた。ワッズ伍長は腕に雑に包帯を巻いており、乗員二人が砲と車体を調べていた。残る乗員二人のうち一名は戦死し、もう一名は負傷していた。

ワッズ伍長は小さな切り傷のみであった。彼は手じかに何が起きたかを説明した。スミス少尉とバス軍曹が検閲を終えてまもなく朝食が届けられた。彼らは路傍に座って食べ始め、一名を車両に見張りにつけておいた。朝食の半ば頃に、砲に付いていた兵が敵車両二台が近づいてくると叫んだ。ほぼ同時に敵車が機銃を撃ち始め、叫んだ兵は戦死した。

ワッズ伍長とその他の三名は砲へ急いだが、うち二名が撃たれ、彼らは道路から斜面を降りた、そこなら物陰となっていた。

彼らは先頭車両から一人が降りて荷車の一台に牽引ロープを繋ぎ、敵装甲車が引いて路を開けるのを見た。二台は橋を渡った。彼らは何も出来なかった、というのも小銃を対戦車車両に置きっぱなしであったからである。伍長は小銃を携えていれば、牽引ロープを付けに車から出てきた奴を撃てたのにと思った。

少佐はスミス少尉を傍らに連れて行った。"ごろうじろ、若者よ。君は大変なことをやらかしたわけだ。装甲車を1個班、橋に送って、しかもまさにこのときに着いたのは幸いだったな。私は諸君らがどうしているかみたかったので装甲車に同乗する来る許可を貰ったのだ。常識を働かせろと言ったろ。君のとった処置はこれ以上悪いものはほとんど無いものだったぞ。一体全体、対戦車砲を車体に乗せたままで射的の標的にするなんてことがあるかね? 車両がほとんど装甲を施されていないのは知っているだろう。それに誰が考えても明らかだし、君ですら分かると思うが、装甲車は物騒な場所に近づくときは中で機銃の引き金に指を掛けている奴がいるし、路上阻塞を見た瞬間、弾を放つだろう。かなり程度の良い防護が無ければ、装甲車に乗った奴らと対抗するのは望めん"

"奇襲についてはお分かりかな? わかって居るだろうとも! さて、砲を隠して奇襲を仕掛けられるようにしてくれたまえ。一個完全小隊を与えられて何をしようと思っていたんだね、宿屋に腰を据えて朝食を取ることか?"

"大佐は対戦車砲一門でこの仕事には十分と考えられたので、そこで一門だけを送られたのだ。ここらの家々に部下を潜ませれば敵装甲車の奴が外に出て路上阻塞を取り除くのを阻止できたはずだ"

"私は装甲車班と行かねばならん、ロブスターブルグに戻るまえに中折れ帽とシルクハットに寄ってな"

"この有様の責めの一端はバス軍曹にもあるとは思う。部下に頼りすぎるな。自分で考えろ。古強者のバスは豪傑のビール飲みだ、だがそれだけだ"

"他の者の立場に身をおいて何をするかを考えるんだ"

"さぁ、煙草を吸ってしょげるんじゃない。もう一度機会を得られて幸運なんだ。最大に生かせ。学んだ教訓を活用しろ"



第三段(PHASE III)



最初にすべきことは路上阻塞を作り直すことである。この仕事を与えられた班の伍長は閃いた。兵に番線を探して来させ、届くと荷車二台に農具を結び、取り除きにくくした。

スミス少尉は対戦車砲の適地を探した。少尉は川に面した家の一軒に入れることを考えたが、しかし、窓縁が高いため難しく、木床も土台としてさほどふさわしくなかった。

庭に据えることに少尉はやっと決めた。道路と隔てる煉瓦塀は掩蔽として絶好であり、上に土嚢数個を置けば天蓋になる。あとになって土嚢がやや目立つことが分かったが、近くの庭から茂みや植物を持ってきて全体をうまく偽装できた。

しかし、少尉は対戦車砲に頼りすぎるをやめ、虜となった敵装甲車の運命が彼に教えたのはルイス機銃と小銃射撃も装甲車に対して完全に無意味ではないことであった。

古強者のピンクジンはなんと言ったっけ? あぁ、そうだった! "かなり良い防護が無い限り、装甲車の連中に抗するのは望めない"だ。

少尉はワッズ伍長が、小銃を持っていたら装甲車から出てきた奴を撃てたのに言っていたことを思い出した。良い考えだ! 数名を林において路上阻塞を取り除きに車両から出てきた奴を撃たせるのはどうだろう? 格好の場所が橋から下流側の林の中、下生えがある程度あるところに見つかった。兵には防護を与えねば。勿論だ。そこで少々掘り下げて土嚢で頭上を覆い、全体を慎重に偽装した。伍長勤務上等兵(lance-corporal)他二名でこの配置には十分だと判断した。

さて、小隊の残りはどうしようか。彼らがやるべきことは無いように思える。けれど、防御を強化するため家々のうち一軒、路上阻塞と橋を瞰制できるのにルイス機銃一個班を配置した。その他は宿屋に送り返し、ほどなくスミス少尉も戻った。

損害がゆえ、再編が必要だった。対戦車班に数名が貸し出され、小銃班一個が暫定的に解体(disband)された。

状況を検討して、少尉は彼の措置が前回よりも良いと満足し、しかし手ひどい失敗を一度したあとでは、今回は完全に自信を持てなかった。

努力はしたものの、陣地をより強化する方法は思いつかなかった。けれども彼は宿屋を守るほかは未だに何もしていない2個半の班が気がかりだったのである。

鉛筆を取り出すと、彼は帳面に前回の失敗の原因と学んだ教訓を書き留めた。

1.対戦車砲が開けた場所に置かれたままであった。

教訓 隠蔽は常に重要である。

2. 対戦車砲が失敗したら、路上阻塞を守る者は無かった。

教訓 (a) 常に弓には二本の弦を準備しておくこと。
   (b) 路上阻塞は守る者がいない限り役に立たない。いない場合、敵は車両から出てきて牽引ロープをつけて引き剥がしてしまう。
 

3. 機銃を装備した装甲車の敵は油断なら無い客である。敵の弾薬は豊富であり、気ままに使えるようだ。

教訓 路上阻塞を守る者は隠蔽される必要がある。可能ならば射撃から掩蔽されるべきである。

少尉が学んだこと、あるいは学ぶべきことは多いが、紙に書き付けるのはさほど容易ではなかった。役に立たない青二才のワッズ伍長は敵装甲車が出現したとき備えていなかった。伍長と部下は朝食をとっていたのだ。然り、少尉自身も朝食をとっていた。畜生! ナポレオンや誰か専門家も人はすきっ腹では戦えないと言っている。

突如、少尉は閃いた。警報を発する見張りを立てちゃどうだろう? つまるところ、かわいそうな部下たちも一日中、指を引き金に掛けて待っているなんてことは期待できない。

スミス少尉は立ち上がり、バス軍曹を探しに行った。軍曹に閃きを説明するために、である。バス軍曹もその考えは素晴らしい思いつきだと同意してくれた。どこに見張り所を設けると良いか続いて話し合い、軍曹は橋の向こうの道筋数百ヤードのところが良いという意見であった。何らかの敵が近づいたら小銃を撃つよう命じておくのだ。

はじめのうちはスミス少尉もその意見が良いように思えたが、さらに考えると反対意見もあるという結論となった。第一に、橋から400ヤードか500ヤードは道沿いに見通せるから見張りを置くとなるとさらにその先となる。それ以上に沼地でないところでさえ、地形は開けており平坦である。見張りに適した場所を見つけるのは容易ではなく、敵に発見されたら殺されるだろう。河川は装甲車両に対してはかなり良い障害であり、少尉は避けられるものなら部下を危険に晒す(commit men out into the blue)のは気が進まなかった。

" どうでしょう、上官殿" と軍曹は述べて、"ここらに見張り塔があるとは見えません"

スミス少尉には考えがあった、"教会はどうだろう?"

そこで両名は教会へゆき、容易に角塔へ行けることがわかった。塔の天辺からは一帯を数マイル先まで見渡せた。塔から見られずに橋から2、3マイルまで近寄るのはどんな車両にも無理である。残る問題は見張りがどうやって敵車両が見えたとき警報を出すかだ。

小隊軍曹の意見が役立った、空の油缶を置いて見張りに何か叩くものを持たせるのはどうだろう?

こうして、橋のそばで配置についている小銃班の残りは教会の塔に見張りとして置かれ、フィドルトンからの道を油断無く見張り敵が見えたら即座に警報を出すよう命じられた。

試してみたところ、短い鉄棒で灯油缶を叩くと全員に聞こえる以上の音を出せることが確かめられた。

措置が完成したのは10時のことだった、少尉は再び宿屋に戻った。

少尉の次の仕事は各配置を30分毎に回ることだった。少尉と軍曹が代わる代わる行った。だいたい10時30分、少尉が最初の見回りにでたとき、教会の塔から警報が聞こえた。1分もしないうちに少尉は教会塔の天辺におり、興奮した見張りが装甲車四台が橋に近づくのを指差した、先頭の二台は橋からおよそ1マイルか1.5マイルのところであり、残る二台はその後ろ大体800から1000ヤード離れていた。

非常に興奮しつつも、少尉は事態をみるにここよりも良い位置は無いことに気づいた。計画はなり、いまやそれが試されるのを見守らねばならないのだ。

装甲車は橋からおよそ400ヤードから500ヤードの曲がり角に先頭車が着くまで迅速に進んだ。そこで一分か二分の間止まった。少尉は引き返すのではないかと気が気でなかったが、突然、先頭車がこちらへ動き出し、橋からおよそ300ヤードのところで機銃のタタタタタという音がはっきりと聞こえ、路上阻塞のまわりに着弾するのが見てとれた。

ドン! そして数秒後、ドン! 対戦車砲が撃った。

"どんぴしゃだ、神掛けて" 少尉は叫んだ。"でかしたぞ、ワッズ伍長!!"

たしかにどんぴしゃだった。最初の一発で敵装甲車は止まり、バックし始めたところに二発目がまともに当たった。三発目と四発目は外れたが、五発目は命中した。その間、二台目の敵は分別も勇気のうちと考えて、あたう限りの速度で逃げ出し、後ろの二台と合流すると三台で消え失せてしまった。

喜びいさんで、少尉は塔をたちどころに降りるとワッズ伍長と砲側班を祝福しに急いだ。

敵先頭装甲車の乗員のうち1名が戦死、残りは負傷したことが判明した。車自体は完全に行動不能であった。

やっと、なにか良い報告をできるようになった、橋は守られ、敵装甲車一台を撃破し一切損害を出さなかった。災厄が全くの思いがけぬ幸運により避けられた午前早くの話とは違うのだった。

ロブスターブルグに連絡をすると、副官は事務室にいなかったが、大佐が出て、上長は喜んだばかりか口をきわめて褒め、前回の遭遇を報告したときの副官でもこうは言えないほどであった。

"よくやったぞ、スミス少尉"と大佐。"部下たちに私が諸君を誇りに思うと話してくれたまえ。が、油断してはならん。これまでは偵察車両だけを捌いていればよかった。敵は明らかに山高帽橋に関心を示している。より断固とした行動に出てくるであろう。旅団は当地ロブスターブルグを大体2時ごろに出発する予定だ。我々が到着するのは真夜中頃になる"

次の検閲巡回で大佐の言葉を全員に伝えて警戒を緩めぬよう注意した。ワッズ伍長には特に褒めた。

"よくやったな、ワッズ伍長。出来る限り待って撃ったのが嬉しい。早めに撃ち始めていたら、あの車を仕留められなかっただろう。スミス少尉は自分が経験を重ね成功した指揮官のように感じた。

宿屋に再び戻ると、少尉はバス軍曹を談話室(sitting-room)に呼んだ。

"バス軍曹"、と少尉は切り出した。"思うにこれは機会だ、最もふさわしい機会だと思う。ビールを飲んだことはあるかね?"

"何度かございます”、軍曹は微笑みながら答えた。

"ではこの宿屋の自家製がどうかみてみようじゃないか"

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第四段(PHASE IV)

正午12時にスミス少尉は再度守備隊を検閲した。対戦車砲が全てよしであるのを確かめ、ついで橋を眺めるルイス機銃班へと回った。眺めはさほど良くなかった、というのも木苺川左岸の木々に遮られているためであるが、しかし路上阻塞ははっきりと見え橋の向こうの道路を500ヤードほど良好な射界に収めていた。

スミス少尉が立ち去ろうとしたちょうどそのとき、警報が再び鳴り出したのがはっきり聞こえた。彼は今いるところに留まることにし、ルイス機銃が覗いている窓の一つ隣から事態を見ることにした。

かなりの間、警報の音のほかは何も見えたり聞こえたりしてこなかった。

そして数分後、橋の向こうの角のあたりに何か見えた気がした。角一帯には木は無かったが、茂みがいくらかあった。それ以上に道路がそこで僅かに窪んでいた。少尉は教会の塔へ行っていれば良かった、あの場所がはっきりと分かるところに居たらな良かったのにと思ったが、そのとき道の角の方向から激しい連射が来た。これにルイス機銃が応じた。状況はいささか不快ではあるが、さほど警戒すべきでもないように思えた。とどのつまり、敵車二台(機銃二丁が撃っているように思えた)では川越しにあてずっぽうで撃つほか大したことはできず、機銃弾は家々の壁にあたり対戦車砲にかなり近かったが、砲はよく掩蔽されており砲側班もかなり安心であった。

対戦車砲はまだ撃っていなかった。おそらく砲員は敵車があまりにも低いところにいるので見えないのだろう。少尉は砲のところまで安全にいける手立てを探り始めた。家の裏口から出て隣の家に裏手から入れることに少尉は気づいた。手と膝ではらばいで進み低い庭壁を防護に使って砲のところまで安全にたどり着くことができた、とはいえ、頭上を機銃弾がうなりをあげて飛び越えて背後の壁に当たっているとあっては緊張する道行きであった。

ルイス機銃も恐ろしげな音を放っており、敵装甲車の機銃とあいまって少尉を些か興奮させた。

"敵の野郎をどうして撃たないんだ?" 少尉はそう叫んだ。

"見えないのです、上官殿" ワッズ伍長が返事する。

"どこにいるか教える"、スミス少尉はそう叫び、立ち上がると破れ口を覗き込んだ。が、彼が覗き込まんとしたときにぶつかるように地面に身を投げ出した。敵装甲車が機銃を彼にまっすぐ向けて、路上を進んできているところだった、来たのはケルンの方角からだった。どういう奇跡か彼は丁度壁の下に倒れこみ、連射を逃れることができた。しかし、この連射で砲側班全員がなぎ倒されてしまった。壁は当然ながら正面からしか守ってくれなかったのである。スミス少尉は臆病者ではないが、動けば即座に死ぬことは分かった。そのまま敵装甲車が動くのを聞くまでは彼はじっとしていた。すぐに誰かが少尉に異国の言葉で、しかもはっきりと好意のこもらぬ調子で話しかけるのが聞こえた。見上げると、がっしりした悪漢が彼に輪胴式拳銃を突きつけているのが眼に入った。彼が立ち上がり後に続けと命じているのは明らかだった。

少尉は路上へと連れ出され、そこでルイス機銃班の生き残りと合流した。付き添っているのは同じように不愉快な奴だった。身振り手まねで逃げようとしたらどうなるかをはっきりと叩き込まれた。

村は敵の装甲車で一杯なようだった。スミス少尉はケルンからの道に二台、中折れ帽への道に二台、橋への道を二台が動いているのを見、さらに橋に向かって三、四台の装甲車が対岸を進むのが見えた。木苺川右岸の先頭の車両は橋のすぐ手前まで寄せて停車した。男が車内から飛び出て路上阻塞を絡めている番線を切ろうとした。

パン! パン! パン! 道左手の林から小銃が三発響いた。路上阻塞のところの男は顔を埋めるように倒れて動かなくなった。

少尉は喜びの声を思わず抑えられなかった。"ジョンストン(Johnston)伍長、素晴らしい、良くやったぞ、我がつわものよ" 少尉を連行していた奴は彼の喜びに同調せず、少尉がこの瞬間に気づかなければ殴りかかっていたであろう。

捕虜達はいまや無力な観客として路上阻塞を守る勇敢な小陣地と半ダースばかりの装甲車との間の不釣合いな戦いを悔やみつつ見るほか無かった。敵装甲車は直ちに三発の銃撃があった林に弾を送り込み始めた。撃ち返す銃撃が無いので装甲車は射撃をやめたが、敵将校はそれ以上の危険を冒そうとしなかった。路上阻塞の両側に一台ずつできる限り寄せて装甲車を停め、銃撃の源と道の反対側の茂みとに向けられる機銃は全て向けてからもう一度障害の取り除きに掛かった。

スミス少尉にはジョンソン伍長と部下二名に何が起きたか見当もつかなかった。ただ彼らが逃れたことを望むのみであった。また、宿屋にいる小隊の残りの運命もさっぱり分からなかった。そちらの方向からは射撃音は一切聞こえてこなかった。そうすると今のところは健在かもしれない。

捕虜はやがて橋に面した家々の一軒へと連れてゆかれ、スミス少尉がある部屋に、他の者は別な部屋に入れられた。どちらの部屋も階上であり通路が間を通っていた。連行していた奴は通路に残った。

スミス少尉はいまや考える時間ができた、彼の思いは心地よさとは程遠かった。一体どうやって敵装甲車はケルンの方角から現れたんだろう? 道案内役は少尉に山高帽とケルンの間で川を渡れる場所は無いと請合ったじゃないか、それに少尉も地図をみて橋が無いことは分かっていた。道案内役が間諜だったのか? ありそうにもないな。彼は古株の兵士であり、まともな奴に見えた。それ以上に彼のことはロブスターブルグの市長が保証している。いずれにせよ、あの畜生な装甲車はどうにかして木苺川を越えて私は哀れにも失敗したわけだ。ひょっとしたら他の奴が失敗したのかもしれない。それで敵が来れて、備えをひっくり返したわけだ。敵はひそかに渡し船か筏で渡ったのかもしれない。少尉は勿論、村への道を封じるべきだった。しかり、少尉には対戦車砲は一門のみであったが、路上阻塞を作り守らせることは出来た。敵装甲車の連中は確かに馬鹿じゃない。あれはなかなかのやり方だった、車を盾代わりにして降りて路上阻塞を動かすというのは。路上阻塞を守りに遣わした部下は、両側から敵を妨害できていれば啓開を防ぐ可能性がもっとあったはずだ。次回はそうしよう。次回? 次回はありそうに無い。少尉は戦争の残りの期間を不潔な捕虜収容所で過ごすことになりそうだ。

彼の思考は部屋の外での騒音で妨げられた。外を見ると多数の車両が橋を渡っており、見渡す限り並んでいるのが見えた。明らかに軽戦車(light tank)だった。その光景は少尉の失敗をまざまざと見せ付けた。少尉は自分が阻止するために送られたまさにそのものを見るのに耐えられなかった。なんと彼は全くの役立たずであったことか!

部屋の反対側へと戻り、そこなら彼の愚考の結末を見ずに済んだ、彼は再度憂鬱な反省へと沈潜した。

道を塞いで守らせるのを除くと、少尉には他に手酷い失敗をしたり、彼が当然すべきことを省いたようには思えなかった。何が起きたのだろう? 敵のやり口はどうだったろうか? おそらくは数台が橋が守られているかと守られているならばどうやってかを探りに来た。一台を引き換えにして敵は山高帽橋が守られているが、村は木苺川左岸での側翼機動には開け放たれているのを知った。数台の装甲車で橋に西から守備側の注意を十分にひきつけるまで近づき、射撃で釘付けにし、その間に他で渡ったのが忍び寄り守備側を側面と背後から襲う。対戦車砲を家に入れておいたほうがつまるところ良かったんじゃないだろうか。側面からの攻撃にも安全だったはずだ。

スミス少尉はもう一度窓際へいき対戦車砲がここにあったら射界はどうかをみてみた。外を見ると、奇妙な見かけの車両が橋を渡っているのが眼に入った。よくみると、それは軽砲(light gun)が半装軌車両に載せられているものだと分かった。つまり、敵は撃ち放せる砲を持っていたのだ、必要ならば投じる構えがあったのだ!

砲については何といわれていただろう? 沢山あるな、その中でも、砲撃を受ける恐れがある場合、目立つはっきりした建物を占めるのは賢く無い、というのがあった。然り、問題の建物は村に沢山の家々があるのでさほど目立っては居ないが、橋を見下ろしており対戦車兵器の場になりそうな点では確かに眼につく。いかん! 少尉は思い直した、砲撃を受けないとかなり確実で無い限り少尉は対戦車砲を家に入れることはあるまい。簡単に見つからぬほかの場所を探したほうがよさそうだ。

スミス少尉は一晩中起きていて日中は忙しく興奮していた。彼は些か疲れを感じ、敵が彼をどうするんだろうと考えた。何か食べるものが欲しかった。また彼はとても喉が渇いていた。部屋には飲み物は全く無かった。ひょっとしたら看守役が飲み物を持ってきてくれるか、取りに行くのを許してくれるかもしれない。奴は危ないように見えたから、扉をあけるときは用心しないと撃たれかねない。

彼は穏やかに扉を叩いてみた、返事は無かった。

少尉は再度もっと強く叩いてみた、それでも返答は無かった。

慎重に扉を開けてみると、廊下は空っぽだった。頭の中に考えが閃いた、逃げよう。

廊下を忍び歩いて反対側の扉を開けた。他の捕虜達が居た。手早く、しかし静かに少尉は考えを説明した。その場に留まるように彼らに伝え、少尉自身は階下へ忍び降りて様子を探ってくる。少尉が丁度階下についたとき、看守役が彼に突進してきた。少尉が身を守ろうとする間も無く、あごに痛い一発を受けて床に伸びたのだった。

転がり、彼は眼を覚ますとベッドから落ちてそのときに椅子に頭を打ち付けたのだと分かった。

"なんてこった!" スミス少尉はひとりごちた。痛む顎をさすりながら"思うにロブスターマヨネーズの食べすぎだな"



反省(REFLECTIONS)

ベッドから落ちて完全に眼が覚めて、スミス少尉はしばらく寝付けなかった。彼には夢あるいは悪夢をどの細部に至るまでも思い起こせた。彼はきわめて容易に山高帽村の見取り図を書きそこで起こったことを正確に記すこともできるほどだった。さらに奇妙なことには、少尉はその時々の考えも完全に思い出せた。何よりも彼は学んだ教訓を思い出すことができた。

職業への鋭い関心が無いわけではない若者として、少尉はこれらの戦訓を思い返し、仮に彼が現実に夢の中での状況と同様に橋を守るよう命じられたらと考えた。

その結果、少尉はしばらくの間眼が覚めたままでおり、また寝入る前に戦争の巡り合わせで古代ローマの橋を守り抜いたあの勇敢で、かつ見事なるホラティウス・コクレス(Horatio Cocles)の立場になったらどうするか克明に心に刻み付けたのだった。



第二の夢(SECOND DREAM)

第一段(PHASE I)



スミス少尉が時計を見ると1時だった。1時間以上も起きていたことになる。これはやってはならないことだった。忙しい日を控えて、彼は眠らねばならない。体を横にすると、少尉は先ほどの夢をなんとか振り払い、すぐに舟を漕ぎ始めた。しかし、少尉ははっきりとした意識の主である若者が当然期待するような穏やかで力を甦らせる眠りには入らなかった。ともあれ、健康な若者はロブスターマヨネーズを途方も無く平らげるべきではない。

意識が落ちる間もなく、彼はまた生々しい夢に囚われた。

彼の第二の夢が第一の夢と多くの点で同様であったことは説明しておくべきだろう。ある程度まで細部も同一であった。夢の間中、彼は以前にも起きたという感じがしていた。勿論、少尉はそれが単なる夢であるとは分かっていたが、人々も場所も見覚えがあった。

しかしながら、はっきりとした違いがあった。第一の夢では少尉は何も分かっていないという感じで問題に向かったものだったが、今は安んじて自信を感じ、全く同一でないにせよ、同様な状況で橋を守ったことがあるというぼんやりとした感覚があった。何にもまして、彼はある程度のこの問題について役立つ教訓を学んでいることを明確に思い起こせた。これらの教訓は彼の心に確固として刻み付けられていた。

再び、彼は大隊事務室に招集された。そして再び司令(Commanding Officer)から同一の指示を受けた、そして再び彼は山高帽村へと入る己を見出したのだった。

"たいした場所ではありませんな、上官殿"、バス軍曹がそう口にした。

"違うな"、スミス少尉は短くそう返答した、彼は山高帽村の美しさと便利さについて議論するよりも、やるべきことに集中していた。

"小隊伝令に道案内役と一緒に郵便局に行くように伝えてくれ。大隊に到着したことを伝えておきたい"

"道案内役に住民に質問して装甲車をここらで見かけていないか知らせてくれるよう話してくれ"

やるべきことは余りに多く何から手をつけてよいか迷うほどだった。しかし、橋が最も重要な場所に思えた。小隊軍曹のバスに、ワッズ伍長を伴いスミス少尉は橋へと向かった。

"角を曲がったところで敵の装甲車に出くわさねばよいですな"、ワッズ伍長は快活に言った。

"同感だ"、スミス少尉は答えた。"考え直したぞ、偵察は君の対戦車車両でやることにする。バス軍曹と私のために二人分場所を空けてくれたまえ"

橋につくと、少尉は衝撃に見舞われた。どうしてだ、なぜだか、確かにこの場所は以前みたことがあるぞ? 絶対にそうではないのだが、勿論、以前に見たことがあるはずがない。けれどもそれにも関わらず、沼地の中の土手道に続く橋、木苺川左岸の木々、小さな庭が前についた川に面した家々、全てがとても馴染みあるのだった。

"交差点に砲を置いておくのが良いな"とスミス少尉。"できるだけ生垣の後ろに隠すように。しかし、橋を瞰制できるようにな。1個小銃班で橋の向こう側に路上阻塞を作らせる、そしてほかの処置も終えたら砲を降ろして据えて使える場所を探すつもりだ"

"砲側班の残りが着いたら、適切な場所を自分で探すように。しかし、私が君が良いと思う場所を見た後でなければ砲は動かしてはならない。部下には油断するなと念を押してくれ、いつなんどき敵装甲車が来るか分からない"

スミス少尉と小隊軍曹は橋を取り急ぎ調べた。

橋のほかに、道路を塞ぐべき箇所が三箇所あった。路上阻塞毎に一個班を遣わすと考えてみた。小隊全部が使い切られてしまい、予備が残らない。それに少尉は見張りも設けたかった。

少尉はこのことについてバス軍曹と相談した。

"私には分からないのです、上官殿。どうして道路を塞ぐかかです。道案内役はここいらを良く知っていますが、ここ山高帽村とケルン、反対側の中折れ帽のどちらの間にも橋や渡渉点は無いと言っています。部下には朝食を取らせて、少し休ませたほうがいいと思います"

"ここを固めた後でも朝食と休憩の時間はたっぷりある。私はいかなる危険も冒したくない。かなり先まで他に橋は無いかもしれないが、敵はケルンか中折れ帽の橋を渡る可能性もある。それ以上に敵がどこかで筏で数台を渡してくるかもしれん"

"それに加えて、木苺川のこちら側に既に敵装甲車がいるかも分からん。橋へ一個小銃班を直ちに連れて行き路上阻塞に取り掛かってくれ。他の者には私が命令を出しておく"

スミス少尉は小隊軍曹に操られるつもりはまったく無かった。

軍曹はかすかに驚いて少尉をみたが、争うことなく命じられたことをやったほうが良いと心に決めたようだった。

次は見張りを設けることである。手早く調べた結果、教会の塔は理想的であると分かった。兵二名を天辺の部署につけて注意深く見張り、いかなる車両であれ接近したら警報を出すよう命じた。警報を鳴らすため古びた錫の浴槽と短い鉄棒を与えた。

残る三個班の班長を集めて防御計画を彼らに説明した。

ルイス機銃班二個はそれぞれケルン道と中折れ道に路上阻塞を構築するよう命じられた。残る小銃班はロブスターブルグ道の路上阻塞にあてられた。事を容易にするため、四箇所の路上阻塞に名前をつけた。おのおの橋阻塞、ケルン阻塞、中折れ帽阻塞、ロブスター阻塞である。

三個班を材料を集め路上阻塞を作るよう遣わした後、スミス少尉は橋に戻った。ここの班は路上阻塞をうまく作り上げているのが分かった。重い荷車二つが集めてこられ、番線で結び付けられていた。

"出だしは上々だな、伍長"と少尉は担当している下士官に話しかけた。"しかし、見つけられる古い鋤や鍬なんかでさらに固めたほうがいいな。装甲車でも体当たりで壊せるかもしれんし、戦車なら確実にそうだろう。阻塞は厚すぎ、頑丈すぎということは無い"

ワッズ伍長がこのときにやってきて、対戦車砲の位置についての問題をまた持ち出した。

"あそこの家、本道沿いにあって橋に面したのに入れるか、それとも低い庭壁の背後にするか決心がつきません。家の中で砲を据えるのは難儀ですが、やれると思います。壁の後ろなら据えるのも楽ですし、土嚢で頭上を覆うこともできるでしょう。来て見ていただけませんか、上官殿?"

二人で彼らは家と庭を調べた。

"庭には気がさほど向か無いな"とスミス少尉。"橋の方角からの防護は万全だが、もし装甲車がケルンか中折れ帽から来たら危険な縦射を浴びることになる。家のほうがまだ良いな。側面が両方とも守られている。しかし、家もさほど気が進まないのだ。敵がここで本気になって渡る気なら、砲も持ってきているだろう。そしてどの家から対戦車砲が撃っているのか気づくのにそんなにかかるまい。この家は向こう岸からもはっきりと見える。ここで砲撃を受けたら君はきわめて危ないだろうね。どこか他を探さねばならないな"

ケルン=中折れ帽の本道は川と平行におよそ100ヤードのところを走っている。木苺川左岸は木々が濃密に茂り帯となっている。木々の間と道にはかなりの茂みや下生えがある。道自体は村のあたりのほかの全ての道同様に両側にかなり密な生垣が続いている。ケルン=中折れ帽本道の木苺川側には二戸建て住宅が二つあり、それぞれフィドルトン道の両側に位置している。

スミス少尉とワッズ伍長はまず橋に面して左手の二戸建て住宅へと歩いていった。この住宅はほぼ完全に木苺川西岸から木々や背の高い茂み、そして家の裏手の庭を巡る密な生垣により隠されている。そしてちょっと調べただけでここに対戦車砲をおけないことは十分に分かった。山高帽橋も橋から西へと走る道も全然見えなかった。フィドルトン道を挟んで反対側の二戸建て住宅へといくとたちどころに求めていたものが見つかったことが分かった。ここも木苺川側の庭は密な生垣に囲まれているが、生垣の狭間から道が斜めに川へと続いている。道両側数フィート分だけ下生えが刈られており、この道は木々の帯の間を、倒れたのか或いは切り倒されたかした二本の木のため隙間の生じたところで抜けている。

かくて橋の向こう側とそこから西への道路ほぼ100ヤードまで良好な射界に収めている。

スミス少尉はただちにここが対戦車砲にとって好適な配置であると決した。ここは視界からも良く隠蔽されていた。少々鍬で作業し土嚢を用いるとほどなくして機銃に対する砲側員の掩蔽は十分となった。

再び橋へ戻ると、ジョンストン伍長と、対戦車砲が撃破されたり或いはそのほかの理由で機能しなくなった時に路上阻塞を取り除かれないようにするため、配置について話し合った。

ほどなく手ごろな位置が下生えの中の小さな土盛りの背後に見つかった。フィドルトン道の南側であった。路上阻塞がはっきり見えかつ射界も得られたが、道路からは実際の位置を掴みにくいのである。この配置に三名を付けて、直ちに機銃弾に耐えられるよう必要な作業を開始せよと命じた。

手じかに彼の考えを説明したのちに、スミス少尉は伍長に同様の場所をフィドルトン道の向かい側にも見つけさせた。そのとき対戦車砲の位置には近づき過ぎないようにと触れておいた、さもないと対戦車砲を狙った砲撃が降りかかってくる可能性があるためである。

その後、彼はこの配置を調べて、選ばれた位置でよいと承認した。

かくて少尉は敵が橋に殺到することはできまいし、押し通ろうとすれば頑強な抵抗にあうだろうという自信をえたのであった。



第二段(PHASE II)


さて、他の路上阻塞の番である。少尉はまずケルン道のを先に調べることにした。既に敵装甲車が渡河し終えているならばもっとも来る可能性のある方向だからである。

ケルンへの道は山高帽村の中心から北へおよそ400ヤード進み、そこで鋭く右へ折れてさらに200ヤード進んだところで今度は左へ折れている。道を歩いていくあいだ、スミス少尉は誰かが作業している徴候はみかけなかった。角までくると小隊がロブスターブルグから来るとき乗っていた大型バスが角を曲がってすぐのところに停車しているのを見て少尉は驚いた。

"一体これは何だ?" スミス少尉は叫んだ。"馬鹿者どもは僅か数百ヤードも歩けないほど怠けているのか?"

丁度そのとき、ルイス機銃班を率いるウェブスター(Webster)伍長が姿を見せた。

"おい、伍長! 君は一体何をしているんだ? どうして君はバスでここに来たんだ? そしてこのバスはこんな風に道を塞いで何をしているんだ?"

"はい、上官殿"、伍長は丁寧に答えた。"路上阻塞の材料を集めるのに時間が少々掛かるかもと思いましたので、バスを道路をよぎる様に停めて一時的に阻塞に使うのが良いとおもったのです。我々の用意が整う前に装甲車が来た場合に備えてです。ルイス機銃に二人ほどつけて守らせてあります"

"全く持ってその通りだな、伍長。確かに良い計画だ。考えても見なかった。さて、どこに阻塞を置く積もりだ?"

"角を曲がってすぐのところを考えております、上官殿。そこなら不意打ちになります。角を回った先だと敵は200ヤードほど先からみえますから停車して引き返す余裕があります"

"ウェブスター伍長、君には頭脳があるな、それになによりその頭を使っている。まさしくその通りだ! 続けたまえ。路上阻塞を守る配置は視界からばかりでなく射撃からも守れるようにな。気ままに撃ってくる装甲車ならば陣地目掛けても連射してくるだろうから"

スミス少尉はこのような有能な者には物事を任せておけると感じた。少尉は次に中折れ帽阻塞に行こうと歩みを返した。100ヤード行かないうちに少尉の目に村の反対側にある中折れ帽阻塞が見えてきた。道路は完全にまっすぐなのだ。少尉の頭に突然、ケルン阻塞と中折れ帽阻塞が互いに700ヤードか800ヤードを隔てて見えるということが閃いた。そうだとすると、敵装甲車がどちらか一方を取ると、もう一方には背中から撃てることになる。然り、配置は路上にあるわけではないが、正面ばかりでなく背後から撃たれる可能性があってはことは複雑となる。考え直すに、おそらくケルン阻塞は角を回った先に置くほうが望ましい。

ウェブスター伍長のところへ戻り、考えを説明し、角を回った先に路上阻塞を作るよう指示を与えた。

次に彼はロブスターブルグ阻塞を訪ねた。ここを担当する下士官もまたかなり有能で常識にも恵まれているようだった。彼の任務は比較的単純なものであった。両側に家並みのある道を塞ぐだけでよく、守る者のために良い掩蔽を探すのは容易であり、家の中であれば装甲車の機銃手に見つかる可能性はほぼありそうに無かった。スミス少尉はかくも良き班長たちに恵まれたことを内心祝いつつ、中折れ帽阻塞に着いた。

中折れ帽への道はしばらくの間、完全にまっすぐである。ジョーンズ(Jones)伍長が選んだのは家並みが丁度尽きた地点であった。路上阻塞の材料の問題は全く無かった、というのも手近なところに農場があったからである。

スミス少尉のみたところ、阻塞が良く作られており装甲車のみならず、軽戦車の通過すら阻めるほど頑丈であった。

道の両側には幅4フィートほどの茂みが続いており、そのさらに両外を大体2フィートか3フィートの溝が走っている。少尉がぞっとしたことにはルイス機銃に三名がついて、路上阻塞の後ろおおよそ30ヤードか40ヤードのところの道路右手の茂みの中では位置についていた。道路の反対側には班の残りが居た。

"来たまえ、ジョーンズ伍長"と少尉はいい、班長を傍らに連れて行った。"君の措置はよろしくないな。部下を路上に置くのは全く無用だ。君が山高帽村へ進まんとする装甲車の車長だったと考えてみたまえ。自分が時速30マイルで道を進んでいて、突然、路上阻塞を例えば、400から500ヤード先に見つけたと思い描いてくれ。君はまず最初に何をする?"

"停車して引き返します、上官殿"

"さて、君はそうするかもしれんし、そうはしないかもしれん。それは君が受けた命令次第だ。いずれにせよ、阻塞とその直後に向かって撃てと機銃手に命じるとは思わないかね、仮に機銃手が既に撃っていなかったとしての話だが?"

"はい、上官殿。そうすると思います"と伍長は同意した。

"では、部下達を装甲車から降りた奴らが阻塞を取り除けるのを妨げられるが、装甲車からの機銃弾からはかなり安全なところへ配置したまえ。付いて来たまえ、あの農場を見てみよう。かなり有望そうだ"

調べた結果、農場の主棟の北側に好適な配置がみつかった。壁に近く置くことで、ルイス機銃はちょうど路上阻塞を瞰制することができ、しかもその外側数ヤードのところにいる装甲車の射撃からは守られるのだった。敵装甲車が阻塞すぐのところまで来た場合に備えて掩蔽を作る材料は沢山あった。

"敵が阻塞を突破すると決意を固めたら、装甲車の一台を路肩まで寄せてここからの射撃の盾にして誰かが降りて阻塞を片付けることもありえる。そこで君は道路の反対側にも二人ほど配置するほうが良い"が、スミス少尉の去り際の指示であった。

ジョーンズ伍長に指示を実行するのを任せて、少尉は道を歩いて戻り次に何をすべきか考えた。すきっ腹が朝食の時間だと伝えてきた。時計をみると午前8時すぎだった。そこでスミス少尉は宿屋に戻り、自分の朝食をとり、部下のを手配することにした。宿屋につくとバス軍曹も同じ考えだったことが分かった。軍曹は紅茶を淹れさせ、糧食を班ごとにわけて、小さな地元の配送自動車を徴発して朝食をもって回らせるにしていた。

朝食後、スミス少尉はバス小隊軍曹を宿屋の小さな談話室へといざなった。

"バス軍曹"、そう少尉は話を切り出した、"できるかぎりのことは全てやったか確認するのを手伝ってくれ。橋はかなり安全になったと思うし、山高帽村へ入る道路三本とも塞いだ。私が唯一気がかりなのは予備が無いことだ。小銃班の一つから既に二人抽出して見張りにつけている。これ以上どうやって取ればいいのか分からない。各路上阻塞にはそれぞれ配置二つで守っている"

"そのことについては私も考えておりました、上官殿。ご存知のように、問題は対戦車砲が一門のみであり、これを橋に置いたことにあります。勿論、橋が最も重要だと分かります、しかし、私が指揮をとっていたらば、そして指揮官があなたであって、私で無いのはよろこぶべきことであります、上官殿"

"私であったら、砲を車両に載せて、どこから中央に控えておき予備として使います。路上阻塞は装甲車を締め出すには良いでしょうが、損害を与えることはできません。そこで砲を車体に載せておけば敵の来たところへ走って行き少々の損害を与えられるでしょう"

"そうだ、軍曹。君の言ったことは筋が通っている。しかし、私のみるところ最大の危険は対戦車砲車両は完全に装甲されておらず、装甲戦闘車両のように用いれば他の完全に装甲を纏った装甲戦闘車両(A.F.V.)に対して非常なハンデを負うということだ"

"勿論、敵が正面からのみ撃って来るならかなり安心だが、しかしここに二、三方向から同時に攻めてきたとしよう。そうなると動くと側面や背後から撃ち竦められることもありえる。総じて、対戦車砲は最も重要な場所に置いておき、敵に奇襲を仕掛けられると期待するのが最善だと思う。良い意見だった、他にも無いかね?"

"他にも意見というほどのものかはわかりませんが、上官殿、敵装甲車班を私が木苺川のこちら側で指揮して路上阻塞に行き当たったらどうするか考えてみました。取り除けないと分かったら、私は考えを少々めぐらすでしょう。勿論、敵装甲車に何名乗っているのか正確なところはわかりませんが、しかし各車から小銃を持たせて一名割くことは出来ると思います。数名を匍匐して路上阻塞の配置の背後へ回らせない理由はありません"

"なんと、軍曹、君の言う通りだ"、スミス少尉は叫んだ。"それで予備を持たねばならぬというのをはっきりと悟ったよ。しかし畜生一体どうやって予備を手に入れられるか分かればなぁ。言葉が汚くてすまない、軍曹"

"それは大丈夫です、上官殿。少々問題であります"

"問題だな"、少尉は続けた、"敵はまさにそのために各車に歩兵を二人ほど詰め込むさえするかもしれん。一つ確かなのは、路上阻塞はどれも諦めるわけにはいかない、そして一個班で二つの路上阻塞の面倒を見れるとは思えないことだ。しかし、射撃線(the firing line)をまばらにせざるをえないな。一緒に来てくれ、何か出来ないか見てみよう"

彼らが最後のたどり着いた手立ては、各配置は二名のみとすることであった、残り三名は班長のもと局所予備(local reserve)として用いる。少尉の従卒と対戦車砲車両の運転手が教会塔の見張りの交代に送られ、道案内役もこの勤務に加わることを申し出てくれた。有利な陣地であることをかんがみて、ロブスターブルグ阻塞は二名のみで守っても十分に安全とし、一名ずつ道の両側に配置して、班の残りは宿屋にて中央予備(central reserve)とした。

これらの変更がなされるまでスミス少尉は彼が成功を確実にしうる全てをしたとの自信を本当に感じることは無かった。それでもなお、かれはある一点について若干の不安を感じていた。橋は装甲車に対しては安全だと考えていたが、あるいは砲撃に支援されて中戦車(medium tank)や重戦車(heavy tank)が押しのけるのに使われたらば結果はどうかとかすかな危惧を抱いていた。橋を丸ごと吹き飛ばす許しを得られていたらはるかに気楽だったに違いないだろう。

午前10時。スミス少尉とバス小隊軍曹とともにケルン阻塞を調べに向かっていた。二人が着くかというところで、教会塔から警報が響いた。スミス少尉にはどの方角から敵が迫っているか全く分からなかったが、路上阻塞の近くや路上で敵に出くわすのは望んでいないので、少尉と軍曹は道路から外れて茂みの背後に身を潜めた。ほどなく警報は誤りだったことが明らかとなった、一分か二分後に二両の装甲車、疑いなく英軍のものが、角を回って阻塞に近づいた。

スミス少尉は彼らに会うために駆け出した。

"驚いたね、こりゃ" 先頭の装甲車の将校が叫んだ、"それで丸ぽちゃスミスは公道を塞いで何をしているのか伺ってよいかね?" "どうも! ポーカーシモンズかい?" スミスは返事をして、"僕が何をしているかって、僕は今のところ山高帽村の王で、君の奴みたいな敵の臭い車をこの心地よい田舎の町から締め出すよう任じられているってわけさ。ところで、ここを通りたいんだろ、えらく邪魔っけだが、数分間待ってくれれば落とし格子をあげて、中へ入れられるよ"

"分かったよ、ご同友。君がどうやっているのか見に送られたんだが、中折れ帽まで行かなきゃらないんだ。だけど君の集めた戦利品をわざわざ動かす手間はいらないよ。2、300ヤードも戻ると小道があるからぐるっと回ってくる。少ししたらまた会おう"

装甲車二両は道を戻っていった。

"アーグストゥス・シドニー・スミス(Augustus Sydney Smith)よ"、完全に打ちのめされた山高帽の王は呟いた、"ありとあらゆる空っぽ頭で、役立たずで、能無しの愚か者で、お前が断トツでびりっけつだ。せっかくの路上阻塞を迂回できる道があるか調べてみないとはね。勿論、その小道は北農場(the North Farm)へ続くに違いあるまいて"

このとき、装甲車が一両、阻塞のところへ戻ってきた。

"おい、丸ぽちゃ。 あの小道に対戦車地雷(anti-tank mine)を敷き詰めてないといいがね。吹き飛ばされるのはごめんだ"

"対戦車地雷だって! もちろん使っていないよ。そこら中に地雷を埋めて回るため袖に馴らされた野外中隊(Field Company)を入れてるとでも思ったのかい? その道を回って全く安全だよ、それどころか、敵の装甲車も同じく安全に行けるんだがね"

"分かったよ、相棒! そうがっかりするなって。古馴染みからの助言を受け入れられないほど狭量じゃなければだが、ここの阻塞を道沿いに先へ動かして小道が交わっているところにするのが良いよ。それと対戦車地雷を忘れないでくれ。うちらはひどくあれが嫌だね、とりわけ埋め隠されててほとんど見分けがつかないときはね。副官(Adjutant)にいくらか送ってもらうといいよ。路上阻塞に幾つか混ぜ込むか、その直前だったら、より守りも堅くなるし何かを仕留められるいちかばちかの可能性もでてくる。さて、じゃ元気でな! 行かなきゃならない、この助言は無料だよ"

スミス少尉は助言を受けられぬほど狷介でなかった。まずもう一つ阻塞を道のこの先の曲がり角のすぐ手前に作るよう命令を出した。そこならケルン道ばかりでなく小道も守れる。ついでバス軍曹に他の路上阻塞二箇所が迂回できないか調べて報告させるよう命じた。少尉はすぐに元気を取り戻した。地雷があれば阻塞を戦車からも安全にするという問題が解決するかもしれない。

地雷が必要だということについて副官を説得するのはある程度骨が折れたが、最後には工兵(sapper)と連絡を取って何かできないか約束を引き出すことに成功した。副官は旅団は午後14時に行軍開始で大隊が山高帽村に着くのは真夜中頃だと教えてくれた。

正午頃、工兵軍曹(sapper sergeant)と三名を乗せたトラック一両が到着した。彼らは対戦車地雷について専門家の立場から助言するそなえがあり、対戦車地雷を60個携えていた。午後14時までには阻塞の前に浅く掘られた溝に地雷を敷き終えた。金属はできるだけ不審のないように慎重に埋められて、山形鉄材を雷管に取り付けて装甲車が乗り越えても確実に起爆するようにした。数個は橋の阻塞の中に混ぜ込まれた。

sketch4.gif


スミス少尉はかくてようやくのことで措置が完成した、そして攻撃を受けてもかなりやれる、そのためできることは全てやったという安堵感をえた。仮に失敗したとしても、彼が座り込んで何もしなかったからではなかった。少尉は自分を肉体的にも精神的にも、使うのを許された全ての人員と資材を用いて防御をあたう限り強固とするため全く惜しまなかったと確信して言い切ることができた。こうして、スミス少尉は昼食と大きなジョッキ一杯のビールを飲みつつそれだけのことはしたと思うのであった。



第三段(PHASE III)

食事が終わろうかというとき、兵が電話に呼ばれていると知らせてきた。電話に出てみると相手は師団本部(the Divisional Headquarters)の参謀将校であることが分かった。参謀は少尉に航空偵察(air reconnaissance)の報告では北からのフィドルトンに繋がる道に敵装甲戦闘車両のかなりの動きがあると伝えてくれた。敵装甲車がフィドルトンをおよそ20分前に通過し、山高帽へ向かっている模様とのことだ。最後に不明数の敵装甲車が午前中に木苺川東岸にいることが判明しており、川西岸の機甲部隊と無線通信(wireless communication)で繋がっているとのことであった。

スミス少尉は各班長に警報を送り、教会尖塔の見張り場(look-out post)へと急いだ。

当直の見張りは報告することは何もなかった。少尉は見張りを倍に増やすのが良いと考えた。一人にフィドルトン道を、もう一人に他の道路三本を見張らせるのだ。彼らは長く待つ必要は無かった。少尉が来てからおよそ10分後、見張りの一人が疑いなく装甲車班がフィドルトンの方角から前進してくるのを指さした。二台が残りの800ヤードばかり前を走っている。少尉が時計をみると、見張りが警報を鳴らした。大いなる戦いが始まったのは14時30分のことであった。

先頭二台は橋から500ヤードばかりの曲がり角まで来て、そこで停まった。一分か二分して、そのうちの一台が既に停まっていた後ろ二台のところへと戻った。しばらく置いて後ろの三台全てが曲がり角まで来た。どうやらそこでもう一度話し合っているようで、その後数分間動きは無かった。

突然、先頭二台が角を回り機銃を撃ちながらかなりの速さで前進してきた。同時に後ろ二台が停車したままで射撃し始めた。教会塔からも路上阻塞とその直後を集中的に撃っているのが分かった。路上にはっきりと弾着の衝撃がみえた。先頭車が阻塞からおよそ100ヤードのところまで来たとき守備側が活動の兆しをはじめてみせた。いきなり、対戦車砲の発砲音が機銃の連射音に重なって聞こえた。第一弾はあきらかに逸れ、第二弾も外れたが、第三弾は先頭車が引き返そうとしているところをとらえ致命的損害を与えたようだった。車は停まって動かなくなり、次弾で機銃も沈黙した。二台目は素早く射界から抜け出すと僚車のところへ無事戻り、三台全部はたちどころに急いで後退していった。

"第一ラウンドは疑いようも無く我々の勝ちだな"とスミス少尉は言い、これが第一ラウンドにすぎず最終ラウンドでないとの感を強くもっていた。彼の推測はさほどせずして正しいことが明らかとなった。

最初の敵装甲車が見えなくなるかというとき、別のがケルンの方向から来た。道は高い生垣が連なるため何台か数えるのはごく簡単という訳ではなかったが、少尉は一個班と見積もった。先頭車は路上阻塞が完全に不意打ちだったようだった、というのも阻塞は角を回って初めて眼に入るからである。少尉にとってがっかりしたことには、敵先頭車はなんとか阻塞にぶつかるのを避け、地雷の手前で停まった。いらただしく先頭車は機銃を撃ち放しながら角をバックして回っていった。

"くそっ!" スミス少尉は叫んだ。"対戦車砲がもう一門あれば、あれも仕留められたんだが"

スミス少尉はロブスターブルグの参謀将校が報告を聞きたいだろうと思った、有利におえた遭遇を報告するのは少尉にしても嫌ではなかった。

参謀将校は知らせを聞いて喜び、さらなる航空報告で前の内容が確認され、敵機甲部隊の少なくとも一部がフィドルトン内部および周辺に篭っているとの情報を伝えてくれた。様々な情報源を総合したところでは敵は山高帽にて渡る準備をしている。スミス少尉は師団長(the Divisional Commander)が敵が渡河をせんと本気で押してきたら攻撃させるため、トラクター牽引の砲兵旅団(tractor-drawn brigade of artillery)に装甲車一個中隊の護衛をつけて山高帽の西の高地に送ろうとしていると聞いてほっとした。だが、この旅団は丁度陸揚げを終えたばかりで少なくとも今後三時間内に配置に付くことはできない。

少尉はかくも強力なる支援を受けられると聞いて喜んだものの、彼がこれまで経験してきたよりもさらに過酷な試練にあうかもと気づいた。けれども、彼はここまでは成功しており最善を望むほかない。

郵便局からでると、バス小隊軍曹にあった。軍曹は橋に行っていたことと損害は無かったことを報告した。敵装甲車の乗員は二名が戦死、さらに一名が負傷していたのを捕らえ宿屋に連行しているところであった。

待つほかすることは無い様に思われた、そこでスミス少尉は教会塔へ戻った、かれはここを戦闘本部と決めていた。一時間ほど何事も無く過ぎた。そして15時30分ごろ、西の方遠くから砲声が聞こえた。そしてほどなくして木苺川西岸の湿地に敵弾が鈍い地響きとともに着弾とした。

"大外れだな!"、少尉は感情もあらわに叫んだ。

しかしながら、次射はもっと狙いが良かった。山高帽橋から2,300ヤードほど下流の木立の中に着弾したのである。第三射と第四射は村の家屋に命中した。

"小さな榴弾砲(howitzer)ですね"、バス軍曹が述べた。彼も小隊長(platoon commander)とともに教会塔にいた。"すぐにもっとがんがん来るでしょう、上官殿"

まさに予言であった! 軍曹が言ったかと思うと橋の手前の交差点のあたりで半ダースばかりの砲弾が炸裂した。うち一発か二発は家並みに落ちている。 ほどなく敵の砲撃が橋のごくそばを探っているのが明らかとなった。とりわけ橋に面している家並みと上流側の一帯である。

"見てください、上官殿!"、見張りの一人が呼んだ、"道路をやってくるあの奇妙な見かけのやつを見てください。豆戦車(little tank)に違いありません"

その通り、半ダースばかりの背の低い車両がフィドルトン道を進んでいた。スミス少尉は双眼鏡(glasses)で注意深く眺めた。

"そうだな、まさに軽戦車だ。あきらかに砲撃の援護下で射撃してくる気だろう"

この見通しは外れたことがすぐにはっきりした。道路の曲がりまで近づくと、敵軽戦車は視界から消えうせ、しかし、見えなかったもののすぐに聞こえてきた。橋とその近傍は濃密なる機銃射撃とさらに激しさをました砲撃の的となった。

"さらに装甲車です、上官殿" 見張りが告げた。"二台すごい勢いで走ってきます"

敵装甲車二台がすぐに角を曲がり、橋にまっすぐ来た。先の戦闘で損傷を受けた敵装甲車はいまだに阻塞から50ヤードほど向こう路上にあり、道路幅半分を塞いでいた。

この時点まで守備側には何の活動の兆しも無かった。しかしすぐに全部が死に絶えたわけでないことが分かった。対戦車砲が再び砲声をあげ、そして痛烈な一撃をあたえた。敵装甲車がもう一台、その無鉄砲さの報いを受けた。残念なことに僚車は運が尽きておらず、逃げおおせた。

山高帽橋を押し渡ろうとするこの失敗した試みと同時に、敵装甲車一個班が再びケルン阻塞に近づいてきた、しかし多数の弾薬を撃つほかは何もせずにやがて引き上げた。

"どうしたのかね、古臭いもじゃもじゃ顔よ"、スミス少尉は一人ごちた。"こんなに楽してアウグストゥス・シドニー・スミスを押しのけることはできんぞ。あんたも、何かうまい手をかんがえてこいや"

敵はやがて何かもっと良い手を考えるべきと決したのか、はたまたこの企てをあきらめたのか、突然活動が止んだ。

"バス軍曹"

"はい、上官殿"

"対岸の連中を君が率いていたら、次はどうする?"

"申し訳ありません、分かりませぬ、上官殿。戦車とかそういったことは馴染みがないのです。私は常に一歩兵であり、これからもそうあれかしと願っております。そうですね、もし二個小隊ほど手元にあったら、あの屑鉄どもよか良い働きをしてみせるのですが"

"では、軍曹、二個小隊ほどあったとして、それでどうする?"

"どーするかですって、上官殿? 橋にまっすぐ行かないのは確実ですね。歩兵は道路に縛られません。すぐに沼地を抜ける道をみつけるでしょう。そして工兵少数と筏でさほどかからずに川を渡ります"

"敵に歩兵が居るかな?" スミスは訪ねた。"居たら物事がややこしくなるな。それどころか、事態がひどく不愉快なことになるだろう。こちらの防御は装甲車やその類を締め出すためのものであって、予備は一個班しかない。敵が歩兵やその他の類を使ってきたら大して足しにはならないな"

"私の見たところでは、上官殿。これは我々には少々荷が重いようです。増援(reinforcement)を請うべきです。進言してよろしいでしょうか、上官殿、大隊に乗ってきたバス二両を送って大佐に兵を一杯に乗せてこちらに寄越すように願っては? 敵は歩兵を使う兆しをみせていませんので、手元に使えるのが無いのだと思います、歩兵を連れてくるまでしばらく時間がかかるでしょう"

スミス少尉はこの意見が素晴らしいと思った。今はほぼ午後4時近くで増援があれば午後6時には着くだろう。あと一個小隊あればかなり安心できる。少尉は帳面を取り出して状況を副官宛に記し、懸念と小隊一個の増援を説明した。これをオートバイ伝令に持たせて、副官にバス二両が可能な限りの速さで続いて来ると知らせるように指示して送り出した。

#以下 第四段と結章を最後まで
第四段(PHASE IV)

しかし、運命、むしろ敵は増援が到着する前に少尉をさらにもう一度より激烈なる試練に投じることを決めていた。敵が山高帽の渡河点を確保する試みを放棄していないことはすぐにも明らかとなった。午後16時30分ごろ、砲撃が再開された。今回は敵はあやまたず、これまでの試みを妨げてきた対戦車砲を撲滅しようとしてきた。前回よりも多数の砲が加わっており、少なくとも数門は口径がこれまでより遥かに上だった。また、敵が対戦車砲の位置をかなり正確に突き止めていることもあきらかだった。機銃射撃もかなり濃密となったのがわかった。機銃を撃ってくる軽戦車の数は少なくとも倍加している。ケルン道ではまたも装甲車班が活動し始めた。守備側にとって幸いなことに耕地は深く耕されており、装甲車が路外で活動するのを阻んだ。

雨のごとく弾は降り、村の中央はあっという間にフランスの打ち捨てられた街の様相をかなり良く再現したようになった。橋に面した家々は激しく打ちのめされて数軒は燃えていた。少尉は誰もその家に入れていなかったことを有難く思った。彼は直撃か至近弾で無ければ対戦車砲を撲滅できないとかなり自信を持っており、この地獄を逃れているかもと望みを捨てられないでいられた。彼が不安だったのはこの砲撃が何の前触れなのかだった。次に起こるのは何だろう? これ以上装甲車を使わないだろう。これまで失敗したばかりでなく、擱座した二台がさらなる路上阻塞となっている。

炎上する家々からの煙で前線で何が起きているのかほとんど見えなくなった。少尉は部下がかくも激しい砲撃を受けているのに自身が比較的安全な場にとどまっているのを落ち着かなく感じ始めた。そこでスミス少尉は塔を降りて宿屋の予備に合流することにした。そこでも同じく戦闘から外れている気がして、班を連れて、不必要に危険を冒さずにできる限りケルン=中折れ道まで近づいた。

少尉が宿屋を出たかとおもうと、砲撃が突如止んだ。機銃射撃も大方止んでいる。砲撃と同じくらい、この突然の止み方はそれ以上に警戒感を一層増すものとなった。明らかに何かよからぬことが進んでいる、スミス少尉はその現場に行かねばと感じた。すぐに部下が全員亡くなったわけではないことが明らかとなった、少尉の耳にはっきりと小銃の発砲音が聞こえてきた。橋を一目みて何が起きているのか確かめようと彼はフィドルトン道へ交差点へ向けて駆け出し、予備班も踵を接して続いた。彼の眼に映ったのは一ダースかそれ以上の歩兵が橋を急ぎ渡る光景だった。どうやってそこまで敵歩兵がたどり着いたのかは分からなかったし、止めて聞くこともなかった。敵歩兵にフィドルトン道南側のわが配置から痛烈な攻撃が加えられていた。配置の兵らは明らかに生きており、命中させていた。しかし、敵歩兵の中にはなんとか乗り越えて下生えに入り、そこから配置に向かって撃ち返している者もいた。スミス少尉は瞬時に決心した。少尉と予備班が見つかっていないのは明らかだった。銃剣(bayonet)で突撃するのは危険だろう、少尉たち自身も配置からの銃撃を浴びかねない。そこで班に匍匐して敵が見えるまで進み、側面から撃つように命じた。

一方、敵は自動火器(automatics)二丁ほどを持ってきて木苺川対岸近くから活動させていた、路上阻塞ちかくのどこか土手のあたりから撃って来ているようだった。スミス少尉は予備を使ってしまった。どうすればいい? もう一つ作ればいい、勿論そうだ。中折れ帽阻塞を守っている班はまだ戦闘に入っていないから、ルイス機銃を抜いて阻塞には小銃兵を二人ほど残せばよいだろう。安全な行き方を探していると、新たに音が聞こえた。道際の生垣越しにみると、大きな戦車が二台、橋へ向かっていた。すぐにこの敵戦車は損傷を受けた装甲車二台の障害の問題を解決した、静かにしかし確実にそれらを土手へ押し出したのである。

"これで終わりだな"、スミス少尉はそう思った、"対戦車砲は明らかにやられてしまっている、あの畜生に対処する術は無い"

けれど少尉は死ぬまで戦うつもりだったので、ルイス機銃を連れに駆け出した。手間どらずに見つけて連れ帰り、家々の廃墟の一つに良好な場所を見繕った。運の良いことにはその家は炎上しておらず、橋を見ることができた。少尉は連れて戻るときに戦車に出くわすことを半ば予期していたのだが、二台とも停止しており、橋の阻塞の向こうにいるのをみて驚いた。先頭の奴が何か具合悪いようだった。射撃はそのころには途絶えていた。そのうちに渡ってきた歩兵は殺されるか捕まるかしてしまった。

17時になった。あと一時間は増援が期待できない。少尉が今必要なのはあの戦車二台を手酷く叩ける何かである。

突如、数発が鳴り響いた、明らかに少尉の部下が撃ったものであった。これを合図に辺り一面で銃撃が再開された。戦車も小さな砲と機銃で加わった。

敵砲兵も明らかにまた事態に一枚噛むべきときと考えたようで、またしても弾雨が降り注ぎ始めた。

今回は、しかしながら、敵砲兵は山高帽橋とその至近を避けているようだった。スミス少尉にもすぐに彼が選んだ場所は極めて剣呑なことが分かったが、今となって変えるのは思いも寄らぬことだった。ゲームは終わった、それでも彼は良い出来だったし、つまるところ彼の勝ち目はきわめて薄かったのである。

大きな震動音を聞いて、少尉が見上げると頭上を航空機(aeroplane)が一編隊(flight)過ぎていった。"おぉ、神よ! 新たな恐怖が現れたり!"

"あれは英軍機です、上官殿"、かたわらにいたルイス機銃の伍長が大声で言った、"見てください、もっと来ます、それにまたもっと来ます。うーん、上官殿、陽の方向から来るようです(the blinking place is stiff with 'em.)"

"君の言うとおりだ、伍長"、スミス少尉も航空機についてはある程度知っており、"あれは単座戦闘機(single-seater fighter)の飛行隊(squardron)だな、神かけて! 畜(伏字)な敵砲兵に向かっているぞ。地獄な目にあわせてくれるといいが"

航空隊の効き目はほどなく明らかとなった、あっという間に砲撃は緩やかとなり、やがて完全に止んだ。

さらに響きが頭上からして、別の航空機の一群が到着したことを告げた。"昼間爆撃機(day bomber)、そうでなきゃ、俺は田舎者(Dutchman)だ!"、少尉は叫んだ。"教会塔にいって楽しみに見るとするよ"

彼が教会塔に着くと丁度、最初の爆弾投下の効き目を見ることができた、橋の対岸のたもとに落ちたのだ。直撃はしなかったものの、敵戦車二台のまわりに落ちた。敵戦車は完全に攻勢行動という考えを捨て去ったようだった、一台は旋回すると路上をできる限りの速度で走っていき、もう一台は明らかになんらかのところを故障しているようだった。爆撃機の一編隊の爆弾に追われて一ダースばかりの敵軽戦車が路外を後退していくのが見えた。その飛行隊の他編隊は別の到着した飛行隊に加わって敵本体へと向かっていったが、それは教会からは見えなかった。山高帽村はまったく平穏となった。スミス少尉は報告を集めいかなる代価で橋を保持したか知るため出かけた。

二度目の砲撃で高性能榴弾(high explosive shell)が対戦車砲の数ヤード内に着弾した。砲側員二名を殺害して残りは勇敢なるワッズ伍長を含めては負傷するか衝撃で麻痺してしまい、対戦車砲自体は半ば埋もれてしまった。対戦車砲に一番近かった小銃陣地もまた砲弾が命中し、少尉のささやかな予備班の班長もまた負傷した。フィドルトン道南側の配置は幸運にもこの試練を無傷で乗り越えた。

総計で三名戦死、六名負傷は大きな損害とはいえなかった。

"部下達は穴を掘って入るのに少々不平をこぼしていました"とバス軍曹。"しかし今じゃ大変感謝しています、次に掘らせるときはさほど手間は要らないでしょう"

小隊は敵にはより大きな損害を与えていた。戦果には装甲車二台、中戦車(medium tank)一台、殺害十名、捕虜十四名、そしてなによりも橋を保持したのだった。

なぜ先頭の戦車が進み続けられなかったかの謎はほどなくして解かれた。先頭の戦車は損傷を受けた装甲車二台を除け、装甲車二台は阻塞の前に埋められた地雷の上に押し出された。ついで路上阻塞を崩しに取り掛かったときに、履帯が阻塞自体に埋められていた地雷で壊されたのである。

また、橋を超えて殺到した敵兵は歩兵ではなく、砲兵中隊(battery)から抜かれた砲手であることが分かった。

防御を再編し敵側の再度の動きに備えて取れる措置は全て行ったのち、スミス少尉は宿屋へ行った。そこで褒美として紅茶を一杯頂いた。彼が飲み終わろうかというとき、車が戸口に寄せてきた。車中から旅団長と司令が現れた。

"これがスミス少尉です、上官殿"、大佐が彼のことを話した。

"良くやったな、青年よ"、准将はそう言い、"素晴らしいできばえだ。大佐もきっと君のことを誇りにするだろう"

"我々皆、彼を誇りに思っています"、そう大佐は返答し、少尉の手を握りつつ肩を叩いたのだった...

"起きる時間です、上官殿。いいえ、私は大佐じゃありません。ピンチン従卒です、上官殿。早く起きないと整列(parade)に間に合いません"

"おぉっと!"、スミス少尉は口の中でもごもごいいながらベッドから降りた、"なんて夜だったんだ!"



結章(EPILOGUE)

A中隊("A" Co.)を指揮する将校が朝食を終えたころ、スミス少尉が中隊食堂(the Company Mess)に入ってきた。

"おはようございます、上官殿" 、スミスが挨拶した。

"おはよう"、中隊長はそう唸るように返事した。"君に仕事がある"

"なんですって、上官殿!"、スミス少尉は叫んで、"機甲部隊を相手に橋を守るとかおっしゃらないでしょうね"

"一体全体どんな突拍子もない話かね? 君は小隊を率いて波止場に行き弾薬をいくらか降ろし始めてもらう" 

"分かりました、上官殿" 少尉は返答し内心思った、"これが本当の戦争なんだ"
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